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みくにコラム2月号「情愛と知識・スキルのバランス」

 新聞、テレビ等どのメディアに目を向けても悲観的なニュースが多い。最近で一番驚かされたのは日本航空が会社更生法という手段をとるとはいえ一度倒産の形になるという報道である。日航がそこまで追い込まれたのは事業を手広くやってしまったことと、リーマンショック以来の不況で資金繰りがどうにもならなくなってしまったことが深く影響しているとのこと。確かに表層はそうであろうが、日航の問題はそれ程単純ではあるまい。かつて小説『沈まぬ太陽』で山崎豊子氏が指摘した体質の問題が頭をよぎる……

 だが、暗いニュースばかりではない。それは「新生JALCEO(最高経営責任者)に稲盛和夫氏就任」の報道である。これを知った時、私は目頭が熱くなった。会見で「JALは日本の経済立て直しの為にも再建すべき会社である」といった趣旨の話を稲盛氏がされた時、その考えの広さ・深さに感動すら覚えた。氏の考えは、『生き方』『「成功」と「失敗」の法則』等の著書を読み、ある程度は知っていたが、御歳77にもなって更に世の中の為その身を捧げようとする姿勢は、氏が口先ばかりの評論家ではなく、実践家であることを見事に体現していると思う。「男子たるものかくありたいものだ!」と思った諸兄も少なくないのではあるまいか。かく言う私も何を隠そうそう思った一人である。

 現在、著名な経営コンサルトや企業の経営者が書いた書籍がどこの本屋へ行っても所狭しと置かれている。私自身も最近は下手な小説より面白いということでよく買ってきては読み、勉強させてもらっているのだが、そこで触れる思想の源流は松下幸之助氏や稲盛和夫氏、鍵山秀三郎氏にあるように思われてならない。

 その御三方が「単純なことこそ一所懸命やることが大事!」と共通して言われていることはとても興味深い。例えば「掃除」。「掃除」という一見単純な作業でも誠意を尽くしまごころを込めて行うことは難しい。しかし、それを続けることで今まで見えなかったものが見える、「気付き」のある人間へと成長出来るというのである。

「掃除・挨拶」は寿司屋における「玉子焼き」のようなもので、それを見ればその組織の仕事ぶりが伺えるようなものに思う。「掃除・挨拶・その他社会人としてのマナー」が三流で仕事だけ一流ということはあり得ないからだ。幼稚園に於いても同じ。電話応対がいい加減で、保育は一流という園を私は知らない。

 人間が社会生活を営む上で、「相手軸に立ち、考え行動し、それで周りの方々に喜んで頂く。そして自分達もその幸せ感のおすそ分けを頂く」という考え方は必須である。さもなくば、「自分が、自分が……」のエゴイストだらけの世の中になってしまい、何とも住みづらい世の中になってしまうからだ。ワタミ(株)の渡邉美樹氏が「ありがとうを一番集める企業を目指している」と仰っていたが、私たちの園では「子どもが楽しくて仕方のない園、保護者の方が子育てが楽しくなる園、先生がやりがいを感じる園」を目指したいと考えている。

 そこで、まず私たちが実践すべきことは保護者の方が当園を選んでくださったことで我々の仕事が成り立っているのだということを忘れず、1日1日の保育を大切にすることであろう。そしてその姿勢は先述の「掃除」を通して培うことが出来ると考えている。

 園児が気持ちよく登園出来るよう通園路界隈のゴミを拾ったり、教室の見えない所に迄神経を行き届かせた掃除は、危機管理への意識は勿論、自身の謙虚な気持ちの涵養、そして子ども達の微妙な心の動きに対応するセンスを磨いてくれるものだと思う。つまりメンタル面での修行のようなものである。

 確かに知識・スキル(技術)は幼稚園教諭にとって必要である。しかし、それだけでは足りない。日頃私がどんな仕事に於いても必要だと思っていることに「『(顧客に対しての)情愛』と『知識・スキル』のバランス」というのがある。プロというのはこの2つを高い次元でバランス良く成立させている人のことを言うのだと思う。「知識・スキル」が幾らあっても「情愛」がなければ相手軸に立って考えようという発想も出ることはあるまい。保育現場で言えば「ピアノは上手だけれども子ども達がどうすれば楽しんで音楽活動を日々行い、かつ臨界期にある音感能力を伸ばし、友だちと協働する喜びを感じられるかに配慮が及ばない先生」ということになる。「情愛」があれば、「今現在の取り組みが子ども一人ひとりにとってどういう意味があるか、子ども達が無理なく楽しんで取り組めるにはどうすればいいか」に配慮が及ぶはずである。しかし、そういった感覚がなければ先生のスキルは高くとも幼児にそれが還元されることはなく、取り組みを行う先生の趣味に子ども達が付き合わされているという構図になりやすい。しかも先生はその在り方に疑問を抱くことすらせず、日々子ども達に「教え込ん」でしまうのである。

 冒頭で触れた稲盛氏は今後日航の再生にあたって、顧客・社員の満足、それから日本の経済界の活性化を視野に入れた力強い経営手腕を発揮してくださるものと思う。私の仕事とは規模から何から違うが、氏の男としての生き様からは勇気を少なからず頂いている。「単純なことを一所懸命することで、視野を広げる」まずはその点から始めることで、先輩方の道を私も通りたいと考えている。

御調みくに幼稚園

代表 玉崎 勝乗 

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