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代表コラム12月号「幼稚園におけるCSとは」

 巷の本屋さんには接客サービスについて書かれた本が所狭しと並んでいる。コンサルティング業者もCS(=顧客満足度)を高めるための戦略をあれこれ練り、異業種のノウハウならそれを対象業種に翻訳し提案している。千田琢哉氏が『こんなコンサルタントが会社をダメにする!』(日本実業出版社)という本で指摘しているが、コンサルタントを利用する場合、千田氏の指摘の通り依存型ではなくパートナーとして力添えしてもらうというスタンスでないと上手くいかないと思う。要はリーダーの覚悟であり、それがなければ有能なコンサルタントが付いても望む結果は得られないと思う。矛盾するようだが、その覚悟があれば、彼らにお願いしなくても自分で本を読み、現実の市場やネットでトレンドを掴み、それらを自身の業種に当てはめ(つまり「翻訳する」)取るべき手法を見出せるように思う。コンサルタントは「そんな素人判断は危険だ!」と言うかも知れないが、既存の手法を超えたところに活路があるのだから、地域別にまで対応したマーケティング力・普遍的な点と地域独特の点にまで及ぶ提案力がない限りコンサルタントは“素人より少しマシ”といった程度であろう。
 いずれにせよ彼らが言う内容で共通することは「CSをいかに収益に結びつけるか」ということである。お客様に喜んで頂き、その対価としてお金を頂くことは経済の大原則であるのでCSを軸に考えるそのやり方に異論はない。しかし手法ばかりが先走るとそれは途端鼻持ちならないものになってしまう。例えば「こういう風にお迎え・お見送りをすれば客は気分良く店を後に出来、気をよくした客はリピーターになってくれる」「こういう風に魅せるとスゴイと思ってもらえ、口コミをしてくれるだろう」というものである。形式から入ること自体悪いことではない。挨拶をきちんとすることで心も整うということもあるだろう。
 ただ、忘れてはならないことは幾ばくかでも誠意が先にあるかどうかである。「お客様が喜ぶ・感動する顔を見たい」「お客様の記憶に残る商品を売りたい・サービスをしたい」といった気持ちから発し、「ではどうすればいいか」と考え、そこから派生するアイデアでなくては支持を得ることなど不可能である。顧客も馬鹿ではない。手法に終始してばかりで信念がなければ、すぐ見抜く。誠意を手法とするのではなく、誠意があるから手法を用いるという順番が肝要だと思う。「泣きたくなる位感謝の気持ちで一杯だ。この気持ち、お客様にも伝えたい。そうだ□□をすることでその想いを表そう」というように。慢心するとおざなりになりやすいこの点は、常に自分の心に問いかけ順序が逆転していないかチェックを頻繁にする必要があろう。
 幼稚園も一種のサービス業である。ゆえにCSを無視しては成り立たない。では幼稚園におけるCSはどうあるべきなのだろうか。
 幼稚園において主役は子供である。であるからして当然ながら、「ありとあらゆる能力の基礎固めの黄金期とも言える幼児期に、生まれ持った天分を存分に伸ばす」ことから始まる。コミュニケーション力・少々のことでは折れない心・他者を認める寛容な心・集中力・自ら学ぼうとする姿勢・身体能力・美醜を見分ける審美眼。これらは脳の特性上、幼児期に著しい発達を遂げることが脳科学の分野からも明らかにされてきた。私は、これらの能力を楽しみながら身に付けることが出来るようにすることがCSの第一歩であると考えている。成長過程の中では多くのサプライズを子供達自らが体現する。それを子供と一緒になって喜び、更なるステージへ行くことに教諭も胸を躍らせる。保護者も成長する我が子を見て子育てを楽しく感じる。先述の企業・商店の例を置き換えると、「子供達・保護者の喜ぶ顔を見たい」「子供達の記憶・身体感覚に残る素晴らしい幼児期を送らせたい」との想いから発した教育実践を日々行うのである。そのことにより、子供・保護者・教諭の三者が曼荼羅の世界のように調和し、皆が幸福感を抱いている状態こそが幼稚園における究極のCSであろう。
 幼児期に著しい発達を遂げる分野を伸ばしていくためには、しっかりとした原理原則、それに基づいたカリキュラム、指導法、教材が必要である。それらを用いて1日1日を大切に過ごせば結果は自ずとついてくる。原理原則を踏まえ、正しい指導法を行えば、経験の浅い教諭でも充分に結果は出せる。またどういった路線で進めて良いかはっきりしているため教諭はその路線の延長線上でスキルを高めることが出来るしスタッフ全員が共通した枠組みの中で保育実践しているため、個人的に高めたスキルも園内研修等を通じてスタッフ全体に還元しやすい。
 逆にそれらがない場合、園方針に沿った活動から外れやすい、教諭によってやり方がバラバラになりやすい、スキルの高い先輩教諭の保育技術が継承されにくい等といった問題が生じる。結果、幼児を自分の趣味に付き合わせるような行き当たりばったりの保育になりやすい。何の内省もなく、自然成長を自分たちの関わりによる成長と自分に言い聞かせながら年度を重ねるその姿は滑稽を通り越して罪(sin)ですらある。本来ならば伸びることが出来た子供を幼稚園教諭が時間泥棒となり、自分の趣味に付き合わせる日々を重ね卒園させることはあってはなるまい。
 原理原則に則り教育環境を創造している園も数多くあるが、全国的にはまだまだ少ない。日本の幼児教育を変える、ひいては日本の未来を変えるためには、コンサルタント依存の経営、旧態依然の趣味に付き合わせるような保育から脱却し、幼児期を臨界期とした才能を開花させることに全力を注ぐべきだと思う。それこそが究極のCSに繋がる唯一の方法であり、戦後から延々と続いている日本人骨抜き計画を覆せる有力な方法である。
 今はまだ微力ではあるが、視点がブレないよう気を付けながら、当園も適時教育を日々実践していく。

御調みくに幼稚園
代表:玉崎 勝乗