みくにコラム 1月号「行事について思うこと」
新年明けましておめでとうございます。?
?
前回は「製作」について触れた。今回は「行事」について考えてみたいと思う。
どこの幼稚園にも行事はつきものである。当園でも入園式や始業式に始まり運動会やお店屋さんごっこ、発表会等を行っている。
入園式や始業式など式典は例外として、どこの園でも園児達の発表の場は日頃の成果を見せる(魅せる)場にしたいという想いはあるだろう。本来ならば、行事はいつあっても構わない。ふと来月にしようということでも構わないはず……(来週というのでは保護者の予定があって都合つかない可能性が高いので)。しかし、どの園でも(私達の園も未だ例外ではない)どの学校でもそれらは年間スケジュールに組み込まれて、間近になると子どもたちに練習させる。まるで発表会のために音楽や演劇をし、運動会のために運動の練習をするという感じである。
本末転倒、おかしな考え方ではなかろうか?
日頃の成果を発表する場があるのは、子どもたちにとっていい刺激になると思うが、行事のために何かするという発想はやめた方がいいと思う。音楽もお遊戯も運動も4月から毎日繰り返せば、2学期にはいつでも発表会、運動会が出来る子どもに成長しているはずである。日頃楽しく取り組んでいることを滞らせて付け焼き刃の練習をさせることにどれほどの意味があるのだろうか。日頃、あともうちょっとで出来そうだよと励ましておいて同じ口を以て付け焼き刃で要領よくやり過ごすことを教えるような保育は矛盾極まりないものに思えてならない。
ここで西武ライオンズの片岡選手の言葉を引用したいと思う。彼は盗塁王となりチームの優勝にも貢献し、WBCの代表選手にも選ばれた優秀な選手だが、練習は怠らないそうだ。その彼が心に刻んでいることは「継続しない練習は意味がない」ということらしい。
私たち保育者もその態度は見習うべきではないか。継続のない単発的なことをやってどれほどの意味があるだろう。確かに一時子どもたちは喜ぶかもしれない。しかし、それは保育者が継続的な活動の中で、考えたりひらめいたりしたアイデアを試行錯誤した上で(体操や音楽などが)出来ない子が出来るようになった喜びには及ばないと思う。一時形にすることで満足するより細胞にまで染み込みしっかり自分のものになる方がよほど素晴らしいと思う。
だから継続的な取り組みを滞らせてまで「行事のために?する」ということには正直あまり価値を見いだすことが出来ない。もし行事に頼らなければ新鮮さを打ち出せないとしたら、それは日々の取り組みのマンネリを受容していることにならないだろうか。子どもは大人が思っている以上にダイナミックに変化している。昨日出来なかったことが今日出来たり、またその逆であったり。その変化を的確に観察し、認め、またその子その子に合った環境を準備する。本来そんな中にマンネリなどあるはずはない。マンネリの原因は観察を面倒がって、個別対応でなく一律にしか見ようとしない我々保育者にあるのではないだろうか。保育者が素晴らしいと思っていないことに取り組まされている園児は不幸である。何かあると「体操だけだと……」と言う保育者がいるが、それは体操を通じて子どもが成長する場面を知らなすぎる人が言うことではなかろうか。体操を通じて伸びていく嬉しさや友だちを認める心の成長、また友だちに負ける悔しさを経験し成長する場面をあまり知らない人が言うことだと思う。私はその保育者に訊きたい。「幼児期の子どもの身体(運動神経)や心を伸ばす上で、継続的な読み書き計算音楽体操以外にどのような効果的方法があるのか?」と。もしあるのならば検討し、実行する価値はあると思う……。
それともう一つ気付いた点を述べると、「行事のために?する」という視点の中心にいるのは誰かということである。日頃のベクトルの延長線上で子どもたちを励まし更に素晴らしいところを体現するというのなら分かるが、全く方向の違う別のベクトルを設定し、子どもたちに期間限定の負担を負わせ、目に見えるものにする。それにどれほどの意味があるのだろうか。「読み書き計算音楽体操で伸びていれば、期間限定で劇をやっても上手くできるでしょう。それが出来ないならその子にとって読み書き計算や体操はあまり効果が出ていない。」なんて意地悪なことを言う人がいるが、それはフィギュアスケートの浅田真央選手に絵を描かせ、演出家の宮本亜門氏にサッカーをさせ、「上手く出来ないじゃないか、普段やっていることはあまり意味がないね」と言っているような荒唐無稽な論法である。どこの幼稚園でもスキルを持ち、その園独自のベクトルを設定しているのだから、シンプルにそれを通じて人間的成長を図れるようにすればいいと思う。いろいろなことに浮気をするのでなく、本筋で工夫しアイデアを出していくことの方にエネルギーを傾けた方がいいと思う。色々事情があるのは分からなくもないが、子どもを視点の中心に据えて日々関わっていく方が健康的と思うのは私だけであろうか。 御調みくに幼稚園
代表:玉崎 勝乗