みくにコラム2月号「一人一人の想いを大切にーアグノレッジメント(存在承認)?」
先日、近隣の小学校で公開研究会がありました。私も案内を頂いており、当園卒園児がお世話になる学校でもあるので参加してきました。
算数の示範授業が四年生のクラスで行われました。後の数学(数列)につながっていく「数のきまり」という単元でした。
授業を参観して、まず目に留まったのが挙手の美しさでした。指先を揃え、手を真っすぐ上げて答えようとする姿は見ていて気持ちのいいものです。
最初にピラミッドの写真を見せて「これ何か分かる?」と質問。子供達は予想通りそんなの分かるに決まっているとばかりに「ピラミッド」「エジプト」「エジプトのピラミッド」などと口々に答えます。先生は「あ?よく知ってるねぇ」と。ここで子供達の「いったい何をやる気でいるんだ。先生は」という警戒心はほぐれています。アイスブレイクが済んだら、今度は先生「今日はピラミッドを作ってみたいと思います」児童「??」先生「と言っても本当に石を積み重ねるのではなく今日はこの紙で」と言って四角形の黄色い紙をまず一枚黒板に貼ります。続けて二段目も…ここで子供達に決まりに従って石(黄色い紙)が増えていくことに気付かせます。そして三段目に石がいくつ必要なのか聞いた後で、「じゃ手伝ってもらおうかな」と児童に振り、子供達も参加する形で黒板を作っていきます。四段も…と言った所で「あ、石無くなった?実はまだあるんだなココに」と茶目っ気たっぷりに封筒から石(黄色い紙)を取り出すという演出も忘れません。子供達はその頃になるともう脳内のシナプスを大いに働かせ、どういう規則性で増えていくのか「自分で」考えようとしていました。今回の単元では、段の数と同じ数を掛けることで必要な個数(枚数)を導き出せるのですが、それも自分達で気付いていました。ただ、この授業の肝である「何故掛け算を使って出来るのか?」ということは児童に気付かせたい所でしたが先生がほぼ答えとなる見方を伝えてしまった点は残念でしたが。しかし、それを差し引いても子供達の「ひらめき」を引き出す素晴らしい授業でした。その授業を終えた子供達の表情は、まるでスポーツでひと汗流したような爽やかな表情になっていたのが印象的でした。
今回の示範授業は、私達幼児教育に携わる者にも多くの示唆を与えてくれたように思います。それは、教諭と子供との信頼関係、授業や保育に於いて柱とする内容が大切であることです。どれが欠けていてもうまくいきません。いくら素晴らしいメソッドがあっても、眼前の子供達一人一人に目を向けてない場合、それは大概一方通行の味気ない実践になってしまいます。でも一人一人の状態に目を向け、一所懸命考えて出した答えを全体の中で評価し、またクラス全体へと還元することで、その子は集団の中でアグノレッジメント(存在承認)を受けている心地よさを感じる事が出来ます。大人でも自分が勇気を出し提案したことが集団の中で聞いてもらえ理解されたらやはり嬉しいものです。逆に誰にも構ってもらえなかったら…おそらくもう言おうとはしないでしょう。子供も然り、一人一人の頑張る姿を教諭はアグノレッジメントし、そういう教諭を子供達も信頼する。そのことにより保育も成り立っていくのです。
例えば昆虫採集をテーマにリトミックを行うとしましょう。その時出てくるイメージはトンボであったりセミであったり、カブトムシだったりします。時に大人の想定を超えて「怪獣のような鳥」という子供も現れるかもしれません。その時「鳥は昆虫じゃないから別のものを考えてね」なんて言うと子供は自身を否定されたように感じることでしょう。そうではなく、「へぇ?大きさはどれ位?」なんて訊くと子供は全身を使って大きさを伝えようとするでしょう。初めのテーマは昆虫採集ですが、途中イメージの流れが変わったらそれに柔軟に対応する指導者の姿勢が大切と思います。リトミックは豊かに子供のイメージを広げながら音・リズムを感じることが目的なのですから、その生物が昆虫か否かという問題はさして重要ではありません。ですから、子供の心の流れに沿った優しい配慮を以て進めていくことが重要です。何もその時に「鳥は昆虫ではない」と伝えなくても伝える機会は他に沢山あると思います。ただ音楽が流れている時は表現していいけれど、止まったら動きもストップする等の誰でも出来るほんの幾つかの約束事は守らせることは、ルールを守る意識を涵養する上でも必要だと思います。
百ます計算のような子供が一所懸命になれる仕掛けにおいても教諭の個性は指導に出ます。アグノレッジメントが不十分で「こなし」になっている先生の場合、子供達も「やらなくてはならないからやる」という状況に陥ってしまいがちです。けれども子供達の「出来た」を共に喜び、それを「やりがい」に感じるような先生の場合は違います。そういう先生は、子供達の実力を把握し「君だったら後10秒はタイムを縮められるんじゃないか」とか「間違いが3個以内になったら進歩だな」とか言って励ますことを忘れません。また表や個人票を子供と共に作り、そこにシールを貼ったり記録を書き留めたりしモチベーションが下がらない工夫にも余念がないことでしょう。その過程で誰が力を抜いていて誰が今頑張っているかもきっとよく観察できると思います。
アグノレッジメント(存在承認)を基本とした教諭と子供の信頼関係、そして扱う内容、内容に対しての指導者の深い理解が大切であることを再認識させられた公開研究会でした。そこで感じたそれらを、当園でも園内研修等を通じて現場の先生に伝え、より素敵な幼稚園教諭として女性として輝けるようスタッフ一丸となってスキルアップを図りたいと考えています。(了)