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みくにコラム6月号「愛情って??」

 野生動物界では、子供の自立は生きていくため必須である。草食動物は肉食動物から襲われる可能性を軽減するため生まれて24時間以内に四本の足で立つと聞く。一方肉食動物は自分で獲物を獲ったり、恐ろしい敵と戦ったり自らの力で生きていけるように親達は教える。チーターやライオンは、生まれた時は溺愛するものの、ほんの数ヶ月?数年で親は自立に向けた訓練をし始める。子供はそんな親の態度に戸惑い、赤ちゃんの頃のように、親に甘えようとする。しかし、親は鬼となって毅然と訓練するのである。そしてやがて訪れる親離れ、子離れの瞬間…。この時は壮絶である。子供が泣き叫ぼうが傷付こうが、千尋の谷に突き落とす。子供とって最初の恐ろしい敵が親なのである。自然界で生きる動物はこうした通過儀礼を通じて一人前となる。厳しい教えだが、生きていくためにはオスもメスも若いも若くないも関係の無い自然界で延命し、種を継続させていくための合理的システムと言えよう。
 では、人間の世界はどうだろうか。
 厚生労働省は、平成16年の労働白書から、はじめてニートにあたる存在を「若年層無業者」と捉え、2003年に52万人と集計した。平成17年以降の労働白書では「若年無業者」として新たに家事・通学をしていない既婚者・学生も加え、2003?05年64万人、2006?07年62万人、08年64万人、09年63万人と発表している。
 また、2005年3月に内閣府が行った調査(若年無業者に関する調査)では、ニートは2002年に85万人と明らかになった。以後も増え続けており、一説では100万人に達しているなどとも言われている。
 動物の世界では働く(=餌を自分で何とかする)ことが出来ない個体は死ぬしかない。知恵のある人間と野生の動物とを同列に語ることは難しいかもしれない。けれども「自立」という点では彼らから学ぶこともあるように思う。「子供を自立させる」という点では親の役目は同じではなかろうか。動物のように壮絶なまでとはいかなくとも、わが子が一人前になるよう自立の手助けをすることは親を筆頭に周囲の大人の役目とも言えるであろう。
 では子の「自立」を促すにはどうすればいいだろうか。それには集中力・判断力・想像力・行動力等を養うことが重要と思われる。集中力がないと今後習う(学校で習うことだけに限らず)総てのことの吸収スピードが遅くなる。判断力がないとやっていいこと悪いことが分からず、周囲と協調しながら社会生活を送ることもままならない。想像力がないと友達や親の気持ちが読めず、自分勝手な振る舞いになり、やがて社会から疎外されていくことは火を見るより明らかである。行動力がないと他人のために自分を役立たせることが出来ない。
 こうした人間的基礎になる部分は特に幼児期に鍛えられる。その大切な時期に本人が出来ることまでやってあげ甘やかしてしまうのは愛情ではない。例えば、3歳過ぎれば身体的疾患がない限り歩くことは出来る。なのにおんぶや抱っこをする(勿論悲しいことや辛いことがあった時想いを両手ですくうように抱っこする時はこの限りではない)。一事が万事、こうした態度で子に接する親の殆どは子供の言いなりになりやすい傾向がある。歩けるなら自分の足で歩かせる、持てるなら自分の荷物は自分で持たせることが「自立」へのかすかな第一歩である。この他にも新聞を取ってくる、自分のシューズを洗う、玄関を掃く、食器を片づける等子供でも出来ることは沢山あるだろう。家の中での仕事として役割を与え、出来たら「よく出来たね」と笑顔で褒める、認める。子供にとってお母さんの喜ぶ顔は至上の喜びである。その顔が見られるなら嘘でもなんでも平気でつくのが子供である。その大好きなお母さんの役に立て、喜ばれていることを実感した子供はもっと喜ばせたい、褒められたいという想いで次々やろうとする。出来ることをどんどん任せたり一緒にしたりして、やり遂げた時大げさなくらいに褒める、認めることで子供が出来ることはどんどん拡がってくるであろう。
 子育てのゴールは子の自立である。親に甘えず、頼らず、自分の力で人生を切り拓いていく。精神的にも経済的にも自立をし、人に迷惑をかけず、むしろ周りの人を幸せにする人生を送ってほしいと願うのは全ての親の願いではなかろうか。教育もその一手段である。本当に子を想うなら、親はそれこそ「木の上に立って見(親という漢字より)」不必要な過干渉はすべきでない。そして子供に出来ることを環境として与え、「出来た♪」という想いにそっと寄り添い共に喜ぶことが、子の自立を促す真の愛情だと思う。私達も野生動物の親に負けていられまい。子供の自立を子育ての究極目標であることを忘れず、持って生まれた天分を伸ばしていく子供の成長を共に喜んでいきたいものである。そうした家庭が日本中に拡がることによりニートの問題も次第に解決に向かっていくものだと思う。 (了)